くらしをつくる人NOTE

Vol.19
2025.11.27
Vol.19 陶芸家 安藤由香さん

Fragments

本展のタイトル「Fragments=断片」は安藤さんが名付けたもの。

今までの展覧会では北欧で見たあの空への憧れから「空の諧調」を追求していました。
Yuka Andoブランドという客観的なモノサシで計った時に、その範疇に入らない作品は発表せずにいたという安藤さん。
半年の休業を経て、今の自分から生まれたものをもっと素直に受け入れようと思えるようになったそうです。

迷いの数が安藤さんを成長させ、その過程の中で生まれた記憶の断片がKYO AMAHAREに一堂に集う展覧会に期待が膨らみます。

金子「半年のお休みを経て、ものづくりに変化はありましたか?」

安藤さん「以前は自分が“完成した”と思えるものだけを選び抜いて出品するようにしていたんです。
でも、人目に触れぬまま、工房の片隅に放置していた作品を1年後に見てみると、あれ?こっちの方がよかったかもと思うことがあったんです」

金子「なるほど」

安藤さん「自分が100%と思っているものを出し続けることが必ずしも正解ではないかも知れないと思う瞬間は時々あったんですよ。それでも、自分はこのスタイルを貫いてきたし、この拘りこそが作家のあるべき姿だと信じていたんです」

金子「うん、うん。安藤さんのストイックさは作品からも伝わってきます」

安藤さん「休業期間を経たことで自分の気持ちの揺らぎや、試行錯誤している姿もそのまま見ていただいていいのかなと思えるようになったんです」

金子「その片鱗は、先日拝見した展覧会でも感じました。
頑なに“うつわ”に用いなかった複雑な釉薬を施していたと思うんです。それを見た時に作品への向き合い方が変わったのかなって。色調も強めの色を使ったりしていましたね」

安藤さん「今までは空の諧調を意識しながら淡い色に合う色を合わせていたんです。Yuka Andoの色はこうあるべき、みたいなことを優先していたんですよね。でも今は、自分の内面から出てくる、本当に求めている色を素直に表現したいと思っています」

金子「こちらの黒い作品は今まで見たことのない雰囲気ですね」

安藤さん「私は元々黒い色の作品が好きなんですよ。訓練校の時は、黒と白のうつわばかり作っていたんです。身に着けているものも黒が多いし、モノトーンだけで陶芸を続けていくつもりでいたんです」

金子「確かに安藤さんはシックな装いの印象です」

安藤さん「それが、デンマークで美しい空の色に魅了されてしまい、淡い色に挑戦するようになって。
黒はデンマークに置いてきてしまった感じだったんです。憧れの空の色を表現したい思いがあったんですよね。でもある程度それはやりつくした感もあって、休んだ後に何を作ろうと思った時に頭に浮かんだのが“黒”だったんです」

金子「それは今回のKYOでの展覧会がきっかけになったんですか?」

安藤さん「そうですね。それが自分の根幹になる色だと思えたので、KYOでの展覧会に出品したいなと思いました。昔作った黒は自己主張するかっこいい黒だったんですけど、いま目指しているのは内側からにじみ出てくるような“静かな黒”。
質感もちょっとざらっとしているものにすることで、陰影を拾ってくれる黒になればと。
以前のものは艶があって、物足りなさを感じていた。暗さも味方にしてくれるような黒を作りたかったんです。15年前の黒とは求めているものが変わってきているのかなと思います」

金子「目で見てもその奥までは捉えきれない黒さですね。KYO AMAHAREの空間とどのように交わるのか今からとても楽しみです!」

4/5
おっちゃんの教え