くらしをつくる人NOTE

Vol.17
2023.5.2
Vol.17 陶芸家 池田優子さん <YAMA編>

自然物でも人工物でも

金子「池田さんの作品からは海や新緑のグラデーション、時が刻んだ岩の表情といった池田さんが愛する自然を私たちも感じとることができます。
池田さんの表現と自然との関係性についてあらためて教えて頂けますでしょうか?」

池田さん「“自然からインスピレーションを受けて作品を生み出さなきゃ”と意識して
ものづくりをしている訳では無いんですよ。
コンクリートでも土壁でもゴミくずでも、何でもいいんです。自分の気持ちが動きさえすれば。
ただ、シンプルに海を見て綺麗やなあとか滝壺を見てかっこいいいなあって思ってドキドキするじゃないですか。何かに感動するとそれを表現してみたいなという衝動が湧き上がってくるんですよね。うわあ、この苔みたいな色の釉薬を作りたいなあとか」

金子「一番影響を受けているのは自然だけど、その対象を自然に限定している訳ではないということですね。そういった衝動がすぐに作品に反映されているのでしょうか。
それともかたちになるのは少し後になりますか?」

池田さん「どっちもありますけど釉薬は特に開発に時間がかかるんですよね。失敗することも多いですし。織部は昨年からやりたいって思っていたのですが新緑の時季にあわせて制作を進めました」

金子「織部のお話はよくされていましたものね!」

池田さん「自分がワクワクして作り始めたものをタイミングよく展覧会で発表できているという感じですね」

茶人に憧れて

今、池田さんの心を一番動かすのは日本文化の集大成ともいえるお茶の世界。
四季のうつろいと共に客人をもてなす愉しさをお茶事の中で学んでいるそうです。

金子「徳島のアトリエはお茶室も備えた素晴らしい空間ですね。
定期的にお茶のお稽古に通われていると伺っていますがものづくりにも何か影響がありますか?」

池田さん「そうですね。お茶人の粋な遊び方を拝見してとても感動しています。
季節を感じられるような道具の取り合わせでおもてなしするのが素敵だなって思うんです」

金子「うんうん」

池田さん「お菓子に合わせてうつわを選んだりもしますよね。そういう経験をする中で菓子器を自分も作りたいなって気持ちが生まれて」

金子「こちらの織部の菓子鉢、とっても素敵ですね」

池田さん「どうしたらお菓子が綺麗に見えるかをイメージしながら、かたちと釉薬の組み合わせを考えて制作しています。最近はお茶のお稽古で使う道具からインスピレーションを受けることが多いですね」

金子「その他にもお茶から影響を受けていることはありますか?」

池田さん「”何かを想わせる”という遊び心がお茶事の中であるじゃないですか。
新緑を想わせる色があるから今の時季の道具として選びましたとか。
そういう行為がとっても粋だなあと思うんですよね」

金子「季節にあわせてどのようにおもてなしをするかを考えて亭主が道具を揃えていくということですね」

池田さん「私もそういうことを考えるのが好きなんです。
誰々さんのためにこのお道具を出したら喜ぶかなとか。
自分で作るお茶の道具からも季節を感じられて、亭主の想いが伝わるものになったらいいなって思うんです」

金子「織部や天目、そしてお茶の道具ってある意味縛りがある題材だと思うのですが
情熱的で衝動的な気持ちの動きから始まるものづくりだから
池田さんらしさを作品から感じることができているのでしょうね。
今回の展覧会では、“モミジや蛍” といった今までにないモチーフの入った絵付けの作品も並びますよね」

池田さん「そうなんです。季節の草花のような風物詩が描かれたうつわでもてなして頂くとその愛らしさにキュンとするんです。その絵を愛でながらもうすぐ初夏ですねといった会話が生まれることにワクワクするようになったから自分も作りたいなって」

金子「日本人の自然観は美しいですね」

池田さん「茶席でご一緒した皆さんと四季のうつろいをシェアしたり、
昨年の同じ時季のことを思い出せる日本の文化は愉しいなって、年を重ねて思うようになったんですよね。
季節が巡っているだけのことだけど、それに感動できるのはすごくいいなあって」

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ドキドキが止まらない