くらしをつくる人NOTE

Vol.17
2023.5.2
Vol.17 陶芸家 池田優子さん <UMI編>

海街に住むこと

「海陽町の日の出はとっても綺麗なんですよ。明日の朝、海の方に行ってみますか?」

池田さんの素敵なお誘いを受けて、池田さんと今回の旅の同行者「雨晴スタッフの小原」が自転車で向かったのはアトリエ近くの漁港。

霞がかった空に昇る日の出を眺めながら飲んだ紅茶が格別だったとお二人から伺いました。(金子は前日の運転の疲れにより寝坊(汗))

池田さんと出逢った頃は海を感じることのできる作品が多かったように思いますが
お付き合いが長くなるに連れて少しずつ作風が変化していくのを感じていました。

憧れの海の街に住むことが池田さんのものづくりにどのように影響しているのでしょうか。

金子「“住宅街のど真ん中で焼き物を制作している人がいるんだ!” というのが初めて大阪のアトリエに伺った時の印象だったんです。
陶芸家というとアトリエが自然の近くにあって、その地域の空気感が作品にも含まれているというイメージがあったので」

池田さん「そうだったのですね」

金子「一方で作品を眺めていると海の中に自分がいるような錯覚に陥ってとても不思議だなあって思ったんです。
”海が好き”という池田さんの想いがその情景からダイレクトに伝わってきました。
今は都会と海の街を行き来しながらものづくりをされていますがご自身の中で変化を感じることはありますか?」

池田さん「そうですね。拠点が大阪だけだった時は海などの自然を表現したいという気持ちが今よりも強かったのかな。休みの日に見た美しい海の情景がコンクリートジャングルに帰ってくると鮮明に蘇ってきていたんですよね。
自然への渇望が作用することでその想いが色濃く作品に投影されていたのかなあと」

金子「なるほど」

池田さん「今の方がもう少しリラックスした気持ちで海とも作品とも向き合えているのかなって思いますね」

金子「海が生活の中に溶け込んできた感じなのですかね。非日常だった海が日常に入り込んできているというか」

池田さん「そうかもしれないですね。以前は一枚のお皿で海を表現できたら愉しいなと思っていたけど、今回の展覧会に出品する織部や天目を作ってみたいと思えたのは、そういった環境や気持ちの変化も影響しているのかもしれません。
茶室が徳島の家にあることもその理由の一つかなと」

異邦人?日本人?

2020年から始めた雨晴のアートプロジェクト「雨跡/AMART」。
雨跡を象徴する作品としてメインビジュアルの中に鎮座しているのが池田さんの「関守石」です。

関守石は茶庭や露地に据えられる石で、石より先への立ち入りを遠慮してもらうメッセージを伝える役割を担うもの。

亭主の気持ちを石に託すという行為に奥ゆかしさを感じることのできる
日本の美しい道具だなあと思います。

徳島の家のお庭には池田さんがサンゴ礁に棕櫚の紐を結わいた関守石が佇んでいました。

ここ最近の池田さんとの会話の中でよく耳にするのが“日本人としてのアイデンティティ”という言葉。

日本人であることがものづくりにどのように影響しているのか池田さんに伺います。

金子「無国籍な表現が池田さんの特徴だと思っていたのですが
関守石の発表をきっかけに、池田さんが日本人としてのアイデンティティを意識しながら制作されているのだと自分も知ることができました。
それに続くように日本の伝統的な焼物のひとつ“織部”に挑戦されていると思います。
より“日本”を感じるものを作るようになったのは何故なのでしょうか?」

池田さん「“日本人だからこういうものを作らなくては”という意識は特に無いのですが
“私が日本人である” ことは作品を生み出す上で逃れられないアイデンティティじゃないですか」

金子「うんうん」

池田さん「年齢を重ねる中で日本文化の素晴らしさやユニークさに気付いてきたのかなと思いますね。自分は日本で日本のうつわをつくる人ですし。今、私が一番興味を持っているのが日本の文化。だからこそ、それを作品の中で表現したいなって思うんですよね」

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関守石が出来るまで