くらしをつくる人NOTE

Vol.3
2016.10.03
由起子窯 土屋由起子さん

黒唐津で薔薇色に

由起子さんの作家としての方向を決定付けるもうひとつの運命的な出会いがありました。

それは「黒唐津」との出会いです。

時にはしっとりとした黒、時には艶やかな黒、ひと言で黒といっても様々な表情で愉しませてくれる由起子さんの黒唐津。
唐津というと斑(まだら)唐津や絵唐津が有名ですが、由起子さんが最初に惹かれたのが黒唐津だったそうです。

金子「由起子さんといえば黒唐津。黒唐津といえば由起子さん。そう言っても過言ではないと思います。黒唐津との出会いは、どういうものだったのでしょうか?」

由起子さん「20歳の頃に古唐津の窯跡を毎週末巡っていたのですが、そこで黒唐津の陶片に出会いました。黒といっても、飴色のものもあれば、何ともいえない黒さを持っているものもあって。それを見た時に焼き物を作るならこの黒を作りたい! って思ったんです」

                                

金子「すぐにできたわけではないんですよね?」

由起子さん「独立してから3年間実験を続けました。ちょうど父に泣かされていた頃ですね(笑)。参考にできるものが何もないので、土を変えてみたり、釉薬の調合を変えてみたりひたすらテストをし続けました。そんな試行錯誤を繰り返す中、ある時逆転の発想で焼いてみたら・・・できたんです!」

金子「雨晴では、いつも由起子さんの黒唐津の入荷を楽しみにしているんです。今回はどんな黒なのかなあと」

由起子さん「日本には100鼠という言葉がありますが、私は1000黒を目指そうかなって思っています(笑)。この黒のお陰で私の人生は薔薇色になりました。おばあちゃんになってもこの黒唐津を作り続けたいと思います!!」

由起子さんが古窯で出会い、恋焦がれた黒唐津。
何度も何度も失敗を繰り返しながら自分のものにできたのは、技術だけではなく黒唐津への情熱とたゆまぬ努力の賜物だったのだとこのエピソードから知ることができました。


おおらかなうつわ

由起子さんの作品は、男性的な雰囲気を持っていますが女性にとっても人気があります。
そして、実際に使ってみると料理栄えするとの声を多くいただきます。

            

一見シンプルだけど、とっても使いやすい。
そんな由起子さんのうつわの魅力に迫ります。

金子「由起子さんが考える良いうつわとは、どのようなものでしょうか?」

由起子さん「完成されすぎているうつわって、入る隙間がないというか使いづらいなって思うんですよね。私は料理を助けてくれるうつわを作りたいと思っています」

                          

金子「わかる気がします。由起子さんの作品は、おおらかだなと思いますしいろいろなものを受け止めてくれる」

                                      

由起子さん「自我を出しすぎず、邪念を捨てて自然体で作りたいなと思っています。極力シンプルで、“ここにあっても良いですか?”くらい控えめなイメージのうつわを目指しています。
これは隆太窯で“うつわは寂しいくらいでちょうど良い。あとは料理を盛り付けるだけで良いものを”と教えていただいたことにも通じています」

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秋の夜長とひやおろし